
ケトン体とミトコンドリア

ミトコンドリアというのは細胞内にある小器官なのですが、もともとはバクテリアだったためDNAを持っています。そのために自立的に分裂して増殖することができます。だからこそ人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持つのです。ミトコンドリアのエネルギー代謝が悪化すると、細胞を死に誘導する因子が放出されます。ミトコンドリアが活発に働く状態であれば、細胞も活き活きとしてアンチエイジング効果が見込まれるというわけです。
細胞は、細胞質とミトコンドリアという2つの場所でエネルギーを作っています。細胞質でのエネルギー代謝経路は、主にブドウ糖を分解して体内で使いやすいエネルギー源に作りかえていく「解糖系」と呼ばれるものです。しかし、ブドウ糖の一部が分解の途中で乳酸に変化し完全に酸化されない為このルートは代謝効率が良いとは言えません。
それに対してミトコンドリアのエネルギー代謝はとても効率が良いのです。ケトン体やピルビン酸という化合物が直接届き、完全に酸化されてすべてがエネルギーになるからです。
よって、このエネルギー効率の高いミトコンドリアを如何にして使いきるのか、というのが健康長寿のカギとなります。糖質制限が体に良いというのは、糖質が下がることでインスリンスパイクが抑制されてケトン体の濃度が上がり、それがミトコンドリアでエネルギー源となって代謝効率が良くなる。すなわちミトコンドリアが活性化するからなのです。
線虫の場合ですが、ミトコンドリアを活性化させるピルビン酸やオギザロ酢酸(ケトン体と同じ有機酸の仲間)を添加すると数十%も寿命が延びます。ミトコンドリアが活性化すると細胞も活性化し血管が若く保たれるため、寿命にも影響するのではないでしょうか。
細胞ががん化すると多くの代謝の変化が起こりますが「ワールブルグ効果」はもっとも古くから知られている現象です。がん細胞はミトコンドリアをほとんど使わなくなるという現象です。すなわちがん細胞ではミトコンドリがシャットアウトされてしまい、細胞質だけを使ってエネルギーを生産するようになります。
したがってがん細胞はブドウ糖だけを使って増殖するようになります。
このようながん細胞に、ミトコンドリアだけで代謝されるケトン体を添加すると、がん細胞の増殖が抑制されるのです。またケトン体を他のがん治療に加えて行うと、がんの退行が有意に促進される場合もあることが分かっています。
グリオーマ(脳腫瘍)に対する作用をマウスで検討したものでは、ケトン食だけではわずかに生存率を増加させるにすぎませんが、放射線療法にケトン食を加えて行うと生存率の増加は顕著であることがわかりました。(参考文献:Plos One. 2012;7(5):e36197)
このようなケトン体の作用を「アジュバント効果」と呼んでいます。
Plos One. 2012;7(5):e36197
