ポリヒドロキシ酪酸(PHB)の詳細説明
PHBとは、ケトン体が鎖状に繋がった天然の化合物
ポリヒドロキシ酪酸/PHBは、海や湖に生息する菌(生物/バクテリアの一種)から作られ、ケトン体が何千とつながった重合体というシンプルなものです。
バクテリアの体内に顆粒状に蓄積するものとして知られており、バクテリアがエネルギー不足に陥った時の保険のようなものであると考えられています。バクテリアの体積の80%以上がPHBで占められるため、比較的簡単な操作で純化することができます。
生分解性プラスチックとしての歴史
PHBは長い間、生分解性プラスチックの原料としての可能性が指摘されてきました。しかし構造が大変もろいこともあり、今もプラスチックとしての実用化は限られています。
プレバイオティクスとしての可能性
ところが近年になり、別方面での応用が期待されるようになりました。
それは、この物質がバクテリアで分解されるがゆえに、いわゆる「プレバイオティクス」としての働きにより、哺乳類の健康に寄与できるというものです。
《 高純度に精製されたPHBの写真 》
きめ細かな粒子で、ウェットな食事に混ぜ込んだり、ミルクやスープなどの液体に混ぜ込んで使うことができます。
腸内細菌に届く
PHBはケトン体の重合した化合物です。哺乳類はPHBを分解できないため、大腸内に住む腸内細菌に取り込まれ、その細胞膜上にある酵素によって加水分解されます。
腸内細菌の中でエネルギー基質であるケトン体が放出されることにより、結果として腸内細菌叢が最適な状態を維持する助けとなります。
腸内細菌だけがPHBからケトン体を取り出すことができるため、腸内細菌叢にダイレクトに届けることが可能なのです。
ケトバイオティクスとして働く
1、腸内細菌叢の酪酸・酢酸・プロピオン酸といった短鎖脂肪酸を維持して、腸内細菌たちのための理想的な環境をキープするお手伝いが可能です。
(生後90日齢のマイクロミニブタに2%のPHBを40日間混餌で与えたデータ)
ケトン供与体として働く
2、さらにケトン供与体として、腸内細菌叢でのケトン体(エネルギー基質)が充足した状態を保つお手伝いが可能なため、哺乳類の免疫力の維持にも貢献できます。
非常に安定した物質
まず酸化還元されることがほぼ無いため、
腐敗などの心配が少ないとされる物質です。
実際、安定性試験(加速試験)においては、4年に値する期間を経過しても、分子量の変化がほとんど見られませんでした。
分子量10000以上の割合(%)
サンプル0 スタ ート時 99.4
サンプル3 3ヵ月40℃保存後 99.0
サンプル6 6ヵ月40℃保存後 99.1
サンプル8 8ヵ月40℃保存後 99.2
(加速条件(40℃)における試験において、
少なくとも常温で48か月の安定性が推定された。)
登録されている特許
PHB(ポリヒドロキシ酪酸)で特許が取得されています。
特許7138391 特許6571298
特許2005-513522
論文発表
近年になり、PHBのプレバイオティクスとしての働きに注目する研究者が世界各地で現れています。
彼らの研究成果として発表された論文を一部紹介します。
文献:Fernández J, Saettone P, Franchini MC, Villar CJ, Lombó F. Antitumor bioactivity and gut microbiota modulation of polyhydroxybutyrate (PHB) in a rat animal model for colorectal cancer. Int J Biol Macromol. 2022 Apr 1;203:638-649. doi: 10.1016/j.ijbiomac.2022.01.112. Epub 2022 Jan 25. PMID: 35090944.
文献:Ma, N., Guo, P., Chen, J. et al. Poly-β-hydroxybutyrate alleviated diarrhea and colitis via Lactobacillus johnsonii biofilm-mediated maturation of sulfomucin. Sci. China Life Sci. (2022). https://doi.org/10.1007/s11427-022-2213-6
文献:Suzuki R, Mishima M, Nagane M, Mizugaki H, Suzuki T, Komuro M, Shimizu T, Fukuyama T, Takeda S, Ogata M, Miyamoto T, Aihara N, Kamiie J, Kamisuki S, Yokaryo H, Yamashita T, Satoh T. The novel sustained 3-hydroxybutyrate donor poly-D-3-hydroxybutyric acid prevents inflammatory bowel disease through upregulation of regulatory T-cells. FASEB J. 2023 Jan;37(1):e22708.
文献:Satoh T. New prebiotics by ketone donation. Trends Endocrinol Metab. 2023 Jul;34(7):414-425. doi: 10.1016/j.tem.2023.05.001. Epub 2023 Jun 2. PMID: 37271711.
Trends in Endocrinology and Metabolism 2023 in press の表紙に採用されたポリヒドロキシ酪酸と酪酸菌のイメージ図
【酪酸菌を活性化する次世代プレバイオティクスの論文発表 ジャーナル表紙に採用】として一部のニュースサイトで掲載されています
★ミニ情報 1★
PHBが腸内細菌たちに届くと。。。
腸内細菌でエネルギー基質であるケトン体が放出され、腸内細菌叢で利用されます。