top of page

酪酸菌のメカニズム

酪酸優位な腸内環境は体全体に好ましい効果をもたらします。そのために大腸内の酪酸濃度の増加が哺乳類の免疫系に影響を与える「場」が必要ですが、これこそが大腸上皮の直下にあるパイエル板という構造です。このパイエル板は他の大腸上皮とは大きく構造と機能が異なります。
1) 大腸中の酪酸が通過できる。
2) 抗原提示細胞(マクロファージ)と免疫担当細胞(
T細胞)が密集している
この
2点です。このことで大腸の酪酸は直接マクロファージとT細胞の機能に強い影響を与えることになります。
それではどのような影響なのでしょうか?
これこそが制御性
T細胞(Treg細胞)の分化を促進する、ということです。

パイエル板があるために、酪酸濃度の増加は制御性T細胞の増加を促進するという結果をもたらします。この制御性T細胞は哺乳類の行き過ぎた免疫反応を抑制し、正常な状態を維持する作用があるのです。

Cute chihuahua puppy sleeping with teddy

長寿村と酪酸菌

メチニコフ氏が長寿村を研究して、その共通の食習慣を抽出して、彼らが毎日のようにヨーグルトを食べていることを見つけだし、この中に含まれる乳酸菌が長寿の原因ではないかと考えたのは100年以上前です。それ以来多くの学者が、腸内細菌が健康長寿のキーとなるかもしれないと考えました。
そして近年になってマイクロバイオームなどの最新技術による解析により、酪酸菌も腸内環境を健康に保つために大変重要であることがわかってきました。酪酸菌の
1種である Faecalibacterium prausnitzii がクローン病の患者さんで大きく減少していることが、マイクロバイオームで明らかになったからです。

マイクロバイオーム PNAS.jpg
Little girl with a Golden retriever pupp

​酪酸菌とTreg細胞

​酢酸・乳酸・プロピオン酸

腸内の理想的な環境は弱酸性です。弱酸性に保つためには、腸内細菌から酸性物質(低級脂肪酸)を産生させる必要があり、これには主に4種類の低級脂肪酸があります。すなわち酢酸(炭素数C=2)、乳酸(C=3)、プロピオン酸(C=3)、酪酸(C=4)です。
ちなみに、ケトン体は酪酸の3位の炭素が水酸化されたものです。
多くの腸内細菌はこれらの低級脂肪酸を産生する能力を持ちますが、どの低級脂肪酸を優位に生産して、菌体外に放出するかについては、腸内細菌の種類によって決まっています。酢酸、乳酸、プロピオン酸そして酪酸を優位に生産する腸内細菌をそれぞれ、酢酸菌、乳酸菌、プロピオン酸菌そして酪酸菌と呼んでいます。

脂肪酸4、ケトン体.jpg
White puppies in a basket.jpg

「長寿菌」と呼ばれる酪酸菌

この先駆的な仕事に続いて、酪酸菌の健康効果に関する報告が相次ぎました。2018年の「第22回腸内細菌学会」の中では「長寿者が多い地域に住む高齢者の腸内細菌を解析したところ、酪酸菌が多く検出される」ことが報告されました。ロゼブリアやラクノコッカスなどの酪酸菌が有意に多かったのです。
この報告などを基本として、酪酸菌を「長寿菌」と呼ぶことが提唱されました。

Cute dog sit in the car on the front sea

​【参考論文】

Naito Y, Takagi T, Inoue R, Kashiwagi S, Mizushima K, Tsuchiya S, Itoh Y, Okuda K, Tsujimoto Y, Adachi A, Maruyama N, Oda Y, Matoba S. Gut microbiota differences in elderly subjects between rural city Kyotango and urban city Kyoto: an age-gender-matched study. J Clin Biochem Nutr. 2019 Sep;65(2):125-131.

bottom of page